
CosMxユーザーインタビュー
アステラス製薬株式会社は、2024年より千葉県柏の葉に、最先端技術の空間生物学解析によるがん微小環境研究のオープンイベノーションラボを創設されました。
画期的なこのプロジェクトに立ち上げ当初から尽力され、現在もラボ運営に関与されているイムノオンコロジー部門の中尾様、花田様、鈴木様に、オープンラボのコンセプトやその魅力、さらに空間生物学の可能性について、お話を伺いました。
ー日本での空間解析の駆け込み寺のような存在を目指してー
アステラス製薬株式会社 TME iLab訪問

アステラス製薬株式会社 TME iLab(柏の葉)内に設置された3台のCosMx空間分子イメージャーの前で。
Q.本日はお時間をいただきありがとうございます。まず最初に皆さんの自己紹介からお願いいたします。
中尾)私は空間解析を中心にがん免疫研究を統括しています。
花田・佐藤)我々は研究者として実際のがん微小環境の研究を通じてプログラム創出していく研究を進めており、生物学的な実験やバイオインフォマティクス解析を行っています。

中尾 慎典氏 アステラス製薬株式会社 イムノオンコロジー TMEリサーチヘッド

花田 雄一氏 アステラス製薬株式会社 イムノオンコロジー 主管研究員

鈴木 淳氏 アステラス製薬株式会社 イムノオンコロジー 主管研究員
Q.最先端の空間生物学によるがん微小環境研究のオープンイノベーション拠点を、貴社が立ち上げられた目的や経緯などについて教えてください。
中尾)アステラス製薬は創薬の基礎研究から開発、製造、販売まで一貫した業務を行っています。いくつかある重点的な研究領域の一つとしてがん免疫があり、革新的な癌の治療薬の創出に我々は日々取り組んでいます。科学のめざましい進歩に伴い、我々はこれまで治療が困難だった癌や複雑な要因がからんだ疾患の創薬にも取り組むことができるようになりました。一方で製薬企業が単独で基礎研究から創薬まで進めることは従来よりも難しくなっており、弊社に限らず各製薬企業はアカデミア研究者やベンチャー企業、中核病院などの社外との共同研究提携をしながら進めているのが現状です。そうすることで研究の質の向上や加速化ができます。
Q.開かれたラボにされた意図や目指すところはどこにあるのでしょうか?
中尾)アステラスではオープンイノベーションを推進しており、積極的に新しい技術やシーズを探索しています。ラボには空間解析などの最新装置が装備されていますので、新しい技術を提供することで様々なシーズをもった研究者が集まり、意見交換をしながらお互いのニーズが合えば創薬での共同研究に成長していけばよいと考えています。
花田)製薬のラボですが、最初から共同研究ありきではありません。
Q.アカデミア以外でも利用できるのでしょうか?
中尾)現時点でアカデミアやアカデミアからのスピンオフベンチャーの研究者が、がん研究を目的に機器利用されています。アカデミア研究者やベンチャーに限らず製薬企業の研究者にも開放します。有償貸しなのでイメージしやすいのは大学の共通機器利用に近いと思います。
弊社ラボの機器を利用いただくメリットとしては、勿論潜在的な共同研究への発展性もあるでしょうが、花田や鈴木のように実際に創薬研究を行っているメンバー達とフランクに意見交換が行えることもひとつかと思います。機器をご利用中の空き時間など、自然な会話や交流の中で意見交換できればと思っています。他の研究者とは異なり、製薬研究者視点でのサポートが何かしらできればと思っています。
Q.貴ラボの機器を利用したい方や共同研究を検討したい方はどのようにしたらよいですか?
機器利用を希望する方はウェブサイト(オープンイノベーション拠点に関するお問い合わせ[https://www.astellas.com/jp/innovation/open-innovation/contact-us] から問い合わせをお願いしています。共同研究の要望についても同じところからでかまいません。
Q.ラボではどのように研究を進めておられますか?
鈴木)チームでお互いにアイディアを出しあい、協力しながら研究を進めています。アイディアだけではまだ薬にはできないので、CosMxで解析したデータを使って次に何をするのか話しながらやってみて、そこからプロジェクトに発展させています。
花田)これまではアステラスの社内研究を中心に行ってきましたが、これからはこのオープンラボでの外部研究者との交流を通して共同研究に進めていければよいと考えています。
中尾)CosMxから出るデータは非常に膨大で、観察すればするほどやりたい研究が浮かんできます。花田はある現象を、鈴木はまた別の現象を研究しており、他にも複数名で分担してチームとして研究をしています。
Q.空間解析装置を導入して実際に利用されてから思われる “空間解析の可能性” については、いかがでしょうか?
中尾)シングルセルSEQでは見つけられなかった現象を空間解析で発見することができるであろうという期待感はとても大きいです。CosMx Human 6K panelではがん細胞のクラスタリングが比較的容易にでき、パスウェイ解析も1K panelに比べると、より確からしいデータが出ているように感じます。
花田)ほとんど6K panelで解析しているため、同一条件で1K panelとの比較はできないのですが、Transcript/cellの値が単純に6倍になるわけではありません。これはナノストリングのサポートにも確認しています。癌腫やサンプルQCによる違いもあると思いますので、検体数を増やしながらデータ解析を進めています。
鈴木)空間解析は期待値が非常に高い技術です。CosMxは来年2025にはWhole Transcriptomeに対応すると伺っていますが、そういうハイプレックスでの空間解析にしかできないことがあると考えています。一方で感度(Depth)という点では、CosMxに限らず、in situ技術としての今後の課題なのかなと感じます。
Q. 空間解析はまだ発展途上の技術で、Bruker Spatial Biology(旧ナノストリング・テクノロジーズ)は技術向上に向けて努力をしています。空間解析のスペシャリストとして、空間解析の今後の課題だと感じることがありますか?
中尾)我々の専門はイムノオンコロジーですので各種免疫細胞サブセットの検出が不可欠ですが、空間解析ではその感度が十分とはまだ言い難いです。感度を上げる努力を各企業に期待しています。
花田)その点では、検出感度では抗体の方が高い傾向にあり、CosMxのImmuno Oncologyタンパク質パネルに期待しているところで現在解析中です。
鈴木)NGSを例に挙げると、WGSやWES全解析から観察した結果をもとに、ユーザーが目的に応じて次の解析方法を選択できるように進化してきたと思います。例えば、観察したい遺伝子を絞ったターゲットパネルを利用できるようにしたり、リード長をSNPだったら短く、バリアントなら長く調製できるようにしたりしてきたと思います。空間解析もWTxや6Kなどの高いPlexで空間的な細胞間の相互作用やパスウェイ解析した後に、見たい部分をターゲットパネルでより深く見られるようになるといいと思います。CosMxだとそういう流れが可能だと期待しています。
花田)サンプルQCの推奨値を各メーカーがもっておられますが、その基準を満たしているからと言ってよいデータが出るとは限らず、逆に下回っていてもデータは出るということもあり、何を検体QCの基準とするのかを各社とも捉えかねているので、明確な基準があれば非常にありがたいです。
Q. 空間データ解析でのスタンダードが固まっておらず、研究者は模索中です。Bruker Spatial Biologyではご存じのようにAtoMxというクラウドの解析プラットフォームをご用意していますが、AtoMxはいかがでしょうか?
鈴木)AtoMxもかなり実装されてきて使いやすくなってきました。これからWTx panelがでてさらにデータが重くなっても大丈夫かなと安心しています。
花田)これまでAtoMxに用意されているアプリはざっくり見ることに使っていましたが、最近のアップデート状況からみると本解析にある程度使えるような期待感があります。
Q. ラボの今後の運用・将来展望についてお聞かせください。
中尾)製薬企業の一つの研究施設として、がん創薬や新しい治療コンセプトの創出につなげたいと考え、機器貸しも行っています。あくまでも創薬での研究の発展を第一目的にしていますが、CosMxは3台設置しているところは日本でも弊社ラボだけで、どの施設よりもノウハウが溜まりやすいはずですから、日本の空間解析の駆け込み寺になれたらよいと思っています。

貴社オープンラボの背景や目的がよくわかり、目指しておられるところに大変感銘を受けました。より多くの方に貴ラボでCosMxをご利用いただき、空間解析を利用してがん研究のレベルアップと創薬が加速されることを心から期待しております。ナノストリングは今年(2024 年)の10月からBruker Spatial Biologyとなりましたが、引き続きユーザーからのフィードバックを基に技術の向上を図ると同時に、より包括的な空間解析ソリューションをご提供して、研究を加速させていけるよう企業努力を続けてまいります。
本日は貴重なお話を伺う機会をいただき、大変ありがとうございました。
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関連リンク
- アステラス製薬 TME iLab <https://www.astellas.com/jp/innovation/open-innovation/labs/tme-ilab>
- CosMx日本語ウェブサイト
- AtoMx日本語ウェブサイト
- Bruker Spatial Biology ホームページ